最高裁判所第三小法廷 昭和27年(あ)3013号 判決 1952年10月07日
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人秀島敏行の上告趣意は末尾添付の別紙書面記載のとおりであって、これに対し当裁判所は次ぎのように判断する。
原審で昭和二七年五月二日午前九時の第一回公判期日が被告人の私選弁護人秀島敏行に通知せられた形跡の認められないことは論旨のいうとおりである。所論はこれを憲法第三七条違反だというのであるが、その実質は、原審のかかる刑訴二七三条違背を強調するに過ぎないというべきであって、同四〇五条所定の上告理由に当らない。そして、記録によれば、被告人は原審で初め弁護人を私選しない旨回答しながら、被告人の為めに弁護人が国選せられ、被告人及び国選弁護人の双方から控訴趣意書の提出があり、国選弁護人に右公判期日の通知が為された後になって、新らたに弁護人を私選しているのであり、同公判期日には、さきに私選弁護人の選任によって一たん解任された国選弁護人が再任せられたのであるが、同期日に出頭した被告人はこれに対し何ら異議の申立もせず、また同弁護人は同公判で被告人及び国選弁護人の控訴趣意書は勿論、弁護人の選任届と同時に提出せられた前記私選弁護人の控訴趣意書に基いて弁論しており、原判決もまたこの三者について的確な判断を与えているし、更らに判決言渡期日たる同月七日午前九時の第二回公判期日は右私選弁護人にも適法に通知せられているのに、同弁護人よりは弁論再開の申請等の申立もなく、原判決は同弁護人出頭の上同公判で言渡されたことが窺われる。かかる事情が認められる以上、たとい原審訴訟手続に前記のような刑訴二七三条違背があったにしても、それは未だもって原判決破棄の理由と為すに足らないものというべきである。
その他記録を調べても、本件につき同四一一条を適用すべき事由は認められない。
よって、同四〇八条により、裁判官全員一致の意見で主文のように判決する。
(裁判長裁判官 井上 登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 本村善太郎)